K. SHUN
2020年5月25日5 分
最終更新: 2020年5月29日
本エントリーはVWL.のTwitterで記載したVirtual Workplaceに関する学術文献を簡易的にまとめたものです。その他の文献情報については、Twitterをフォローいただければと思います。
今回のテーマは「ソーシャルプレゼンスとオンラインコミュニケーション」です。仮想環境で仕事をすることは、どのようなメリットをもたらし、どのような課題やリスクを生み出すのかを考えるうえで有益な知見を紹介します。
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■はじめに
先日取り上げた記事
仮想環境へのシフトを考える(7)リモート環境の情報共有とメディアリッチネス論
仮想環境へのシフトを考える(8)コミュニケーションとメディア・ナチュラルネス論
のように「相手が目の前にいる(対面している)」という知覚はコミュニケーションに大きな影響を与えます。 今回はこの知覚・感覚に影響を与える概念である「ソーシャルプレゼンス」を取り上げます。
補足:ソーシャルプレゼンスとは
・長年にわたって研究されてきた概念のため、多様な定義があります。 先に定義をまとめておくと、 ソーシャルプレゼンスとは「オンラインコミュニケーションをしている両者が、『相手がそこにいる』と感じている度合い」を示す概念です。
・ 『相手がそこにいる』とう知覚…つまり、相手の気配や感情や気持ちといったものをオンラインコミュニケーションからどれほど感じ取れているのかの度合いを示すものです。
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■ソーシャルプレゼンスの必要性とメディアの関係
ソーシャルプレゼンスの定義(1)
・通信メディアを使用している2人の間における 「その場にいる」という感覚の質や状態。
Short, Williams, and Christie (1976)
ソーシャルプレゼンスの定義(2)
・オンライン上のコミュニケーションの中で、 人が「実在の人物」として認識される度合い。
Gunawardena (1995)
ソーシャルプレゼンスの定義(3)
・相手が『そこ』にいると、 その人が感じる程度。
川浦 (1990)
ソーシャルプレゼンスの定義(4)
・「実体のある相手とつながっている」 という感覚、知覚、反応の程度。
Tu and McIsaac (2002)
ソーシャルプレゼンスの定義(5)
・誰かが「存在している」「そこにいる」か「実在する」かどうかを超えて、両者の間に対人感情的なつながりがあるかどうかの度合い。
Williams (1978)
なぜソーシャルプレゼンスが必要か
・非言語コミュニケーションの重要性を指摘
→言葉によって伝えられるメッセージは、全体の35%にすぎない 。
→65%は、笑い声、ジェスチャー、話し手の表情、言葉以外の手段によるもの。
Vargas(1987)
なぜソーシャルプレゼンスが必要か
・関係構築のためには非言語的なシグナル (表情・仕草など)が重要 。
・オンラインコミュニケーションは 本質的には「非人格的」で関係構築しにくい。
→ソーシャルプレゼンスを意識して構成する必要
Walther & Parks (2002)
ソーシャルプレゼンスの違いは印象の違いを生む
・ソーシャルプレゼンスの度合いが高い →社交的で温かみ、人間味を感じる人が多い。
・ソーシャルプレゼンスの度合いが低い →非人間的ではないと感じる人が多い。
Short, Williams, and Christie (1976)
メディアで異なるソーシャルプレゼンス
・メディアによって、人が認識するソーシャルプレゼンスのレベルは違う。
→WEB会議:ソーシャルプレゼンスが高い
→音声やテキストのみ:ソーシャルプレゼンスが低い
Short, Williams, and Christie (1976)
<ここまでのまとめ>
メディアによって、ソーシャルプレゼンスは異なるという研究者の意見があります。 非言語情報(表情・仕草等)を伝えられるメディアほどソーシャルプレゼンスが高く、良好なコミュニケーションに繋がるという意見です。 一方で、そうとは限らないという意見を提示する研究者もいます。
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■ソーシャルプレゼンスの生み出し方
メディアの属性によらずソーシャルプレゼンスは生み出せる
・コミュニケーション・メディアの属性が、ソーシャルプレゼンスに与える影響を疑問視。
Danchak, Walther, & Swan (2001)
メディアの属性によらずソーシャルプレゼンスは生み出せる
・非言語的な情報がなくても、 社会的で対人的なコミュニケーションは可能と主張。
Gunawardena (1995) Gunawardena & Zittle (1997)
メディアの属性によらずソーシャルプレゼンスは生み出せる
・オンラインコミュニケーションでも、テキストだけを使って、ソーシャル・プレゼンスを生み出すことができることを報告。
Swan (2003) Swan & Shih (2005)
メディアの属性によらずソーシャルプレゼンスは生み出せる
・オンラインコミュニケーションでも、工夫によって自分自身を「リアル」に見せ、他者と「つながる」ことができることを発見。
→顔文字を使う
→物語を語る
→ユーモアの活用
Rourke et al. (2001) Swan (2003)
メディアの属性によらずソーシャルプレゼンスは生み出せる
・非同期型のコミュニケーション(メール等)であっても、メッセージの内容、メッセージの解釈などを精緻化する(魅力のある内容にする)ことで対人関係を高める効果が得られる。
Walther (1996)
メディアの属性によらずソーシャルプレゼンスは生み出せる
・UMC(Computer-mediated Communication:絵文字・顔文字など)はコミュニケーションに必要な非言語的な情報を補完する役割を持っている。
尹(2008)
<ここまでのまとめ>
従来のソーシャルプレゼンス研究は、どのようなメディアを使うべきかという視点でメディア属性による差に注目が集まっていました。 その後の研究では、メディア属性にとらわれずに、送信者が意識的にソーシャルプレゼンスを生み出せると提示されています。
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■まとめ
SlackやLINEなどのチャットツールは、多様なUMC機能を備えています(顔文字・スタンプ)。 つまり、リッチなコミュニケーションを図るためのテクノロジーが整備されている状況です。そこで重要になるのは、そのような配慮を意識的に出来るかという点でしょう。
ビジネスにおけるコミュニケーションは「公式的」なものであり、感情表現を敢えて差しはさむべきではないという価値観や文化が浸透している職場もあります。私たちの職場がバーチャルに移行するにあたり、それらの価値観も改めて再考や改良を進めていく必要があるかもしれません。
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