本エントリーはVWL.のTwitterで記載したVirtual Workplaceに関する学術文献を簡易的にまとめたものです。その他の文献情報については、Twitterをフォローいただければと思います。 今回のテーマは「知識の転移と情報粘着性」です。仮想環境で仕事をすることは、どのようなメリットをもたらし、どのような課題やリスクを生み出すのかを考えるうえで有益な知見を紹介します。 ――――― ■はじめに 今回は、知識転移研究に注目します。リモート環境では、情報の伝達に苦労するケースが散見されます。情報が転移(相手に伝わり、利用可能な状態になること)されるためには、どのような条件やアクションが求められるのかについて考えていきたいと思います。 ――――― ■知識の転移の重要性とコスト 情報が転移することの重要性 ・知識の移転は、競争優位の差別化的源泉である。 野中・竹内 (1996) 情報が転移することの課題 ・しかし、知識は容易に伝達されるものではない。 Brown & Duguid (2001) 情報は粘着性を持っている ・容易な知識の移転を妨げる理由を、 情報の粘着性(stickiness)というメタファーで説明。 →局所的(個人・状況)に生成される情報をその場所から移転するのにどれだけコストがかかるかを示す概念。 Von Hippel (1994) <ここまでのまとめ> 知識の転移は価値創造に重大な影響を与えるが、なかなか転移はスムーズに進まない。 知識がなかなか伝わらないのは、知識自体が「粘着性(多くのコストを投下しないと転移することができない性質)」を帯びているからと説明しています。 ――――― ■情報粘着性の性質 粘着性とは・・・ ・粘着性(stickiness)の解釈 →広義の粘着性 :送り手が、受け手に知識を移転する際の困難さ →狭義の粘着性 :送り手が、受け手が使用可能な形に知識をアレンジすることの困難さ 若林・大木 (2009) 情報粘着性の度合いをどう考えるか・・・ ・イベントフルネス(eventfulness) という概念によって説明。 →移転プロセスで問題イベントが 発生している程度を測定。 ・イベントなく移転→粘着性・困難性が低い。 ・イベントが多い→粘着性・困難性が高い。 Szulanski (1996) <ここまでのまとめ> 情報粘着性が高い状態とは、送り手が受け手にフィットする形に知識を改変できておらず、その結果、知識がなかなか伝わらない(受け手が利用可能な状態にならない)状態を指します。 両者の間で、齟齬や誤解などが生じる場合は、情報粘着性が高いと考えることも可能です。 ――――― ■粘着性に影響を与える要因 粘着性に影響を与える要因(1) ・知識の特性 →因果関係の曖昧さ (A+B=Cというような因果律が明確な知識は移転されやすい) →知識の有用性の確かさ (その知識が明らかに有用である場合、知識は移転されやすい) Szulanski (1996) 粘着性に影響を与える要因(2) ・送り手の特性 →モチベーションレベル →送り手に対する信頼レベル(受け手の認知) Szulanski (1996) 粘着性に影響を与える要因(3) ・受け手の特性 →受け手のモチベーションの欠如 →受け手の吸収能力の欠如 →受け手の保持能力の欠如(実践への反映) Szulanski (1996) 粘着性に影響を与える要因(4) ・コンテクストの特性 →個人間の人間関係のリッチさ →不毛なコンテクスト (知識移転を促進しない組織文化など) Szulanski (1996) <ここまでのまとめ> 知識の転移しやすさに影響を与えるものとして、次の3点にまとめることができます。 ①転移させようとする知識の特性 ②送り手・受け手のコンディション ③両者の関係性 ――――― ■知識移転の阻害要因 特に知識転移に大きな影響を与えるものはそのうち2つ。 ・知識特性:知識の因果関係の曖昧さ ・人間関係:関係が強いほど暗黙知が共有される Szulanski (1996) 知識移転を阻害する要因 ・知識の複雑性の高さ :当事者間が積極的であっても移転が困難 ・秘密主義:相手に情報を公開しにくい文化 ・競争関係:相手との敵対関係 Hansen (1999) 移転を効率的に進めるためには… ・移転先の相手の文化や個人のアイデンティティに理解を深めることが重要。 若林 (2001) <ここまでのまとめ> 知識の移転を促進するためには、知識そのものが持つ複雑性や因果関係について考慮する必要があります。また他送り手・受け手の関係性、所属先の文化などに配慮する必要があります。 ――――― ■まとめ 情報粘着性は「そもそも情報は伝わりにくいものである」という前提を示唆してくれています。 伝わらないことで不満やストレスを感じる際には、これらのポイントを踏まえて阻害要因を特定したり、 相手に対する理解を深めるなどの対応が求められているのかもしれません。 ――――― 本エントリーはVWL.のTwitterで記載したVirtual Workplace に関するReferenceをまとめたものです。最新のReference情報については、Twitterをフォローいただければと思います。 VWL.Twitter @LabWorkplace 最新のReference情報はこちら
仮想環境へのシフトを考える(10)知識の転移と情報粘着性
更新日:2020年5月29日
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