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執筆者の写真K. SHUN

仮想環境へのシフトを考える(8)コミュニケーションとメディア・ナチュラルネス論

更新日:2020年5月29日

本エントリーはVWL.のTwitterで記載したVirtual Workplaceに関する学術文献を簡易的にまとめたものです。その他の文献情報については、Twitterをフォローいただければと思います。 今回のテーマは「コミュニケーションとメディア・ナチュラルネス論」です。仮想環境で仕事をすることは、どのようなメリットをもたらし、どのような課題やリスクを生み出すのかを考えるうえで有益な知見を紹介します。 ――――― はじめに メディア・ナチュラルネス論は、メディアリッチネス論を支持・説明する概念として、Kock(2002)が提唱した仮説的概念です。 進化論に基づき、ヒトに適したコミュニケーションメディアの在り方を説明しています。 まだ新しい理論で精緻に検証されている理論ではありません。しかし、リモート環境で他者とコミュニケーションする際に生じる問題の要因を考察するうえで有益な概念と考え、メディア・ナチュラルネス論を取り上げます。 ――――― ■コミュニケーションにおける人間にとっての自然さ メディア・ナチュラルネス論の要旨(1) 人間の進化の系譜を踏まえ、 対面状況こそ、人間のコミュニケーションが最も自然に実践されると指摘。 Kock(2002) メディア・ナチュラルネス論の要旨(2) 反対に、メールやWEBツールなどのメディアを用いたコミュニケーションになれば、その自然性(naturalness)が失われ、他者との関係においてリスクが生まれることを提示。 Kock(2002) 進化による自然さ(naturalness)の構成(1) 人類は長い年月をかけて進化した。その過程で、生存競争に貢献する遺伝子を自然淘汰のなかで選択してきた。 現代の人間の持っている生物的な機能は、 長い年月において構成した機能であり、 最も自然に利用できる機能である。 Darwin (1859) 進化による自然さ(naturalness)の構成(2) ヒトの進化を分析すると、ヒトは長きにわたり同期的・同空間的な形態のコミュニケーションに依存していたことを示している。 顔の表情、ボディランゲージ、音(声)を使用し、情報を交換するための進化をしてきた。 Boaz and Almquist (1997) 自然さ(naturalness)の定義 人間が進化の過程で備えてきたコミュニケーション能力をどれだけ利用できているか(利用するメディアがそれらの能力利用を担保しているか)? これがコミュニケーションにおける自然さ(naturalness)の定義と考えられることを提示。 Kock(2002) <ここまでのまとめ> メディア・ナチュラルネス論では、進化の過程で得た能力を利用できる環境=人間が最も自然にコミュニケーションできる環境と考えられています。 進化の過程で得た能力については、次の(1)~(5)が提示されています。 ――――― ■人間が持つ自然なコミュニケ−ション能力 自然さ(naturalness)の定義(1) 同居性(co-location):お互いの表情やボディランゲージを確認しながら、インタラクティブなやり取りを行うことができる。 kock(2002) 自然さ(naturalness)の定義(2) 同調性(synchronicity):コミュニケーションを行う個人が瞬時にシグナル・刺激を交換することができる高度な同時性が担保されている。 kock(2002) 自然さ(naturalness)の定義(3) 表情を伝える能力と観察する能力:相手の顔を見たり、自分の表情を見せたりすることができる。 kock(2002) 自然さ(naturalness)の定義(4) ボディランゲージを伝える能力と観察能力:相手の振る舞いを見たり、自分の振る舞いを見せることができる。 kock(2002) 自然さ(naturalness)の定義(5) スピーチを伝える能力と聞く能力:相手の話を聞いたり、自分の話を伝えることができる。 kock(2002) <ここまでのまとめ> これらのメディア・ナチュラルネス論の提示する自然さの条件を踏まえると、人間にとっては対面でのコミュニケーションが最も自然なコミュニケーションの在り方であることがわかります。一方で、その自然さと環境の不適合によって、リスクが発生することも報告されています。 ――――― ■コミュニケーションの自然さを欠くことのリスク 現代に適応していない自然さ(naturalness) 進化には年月の蓄積が必要である。つまり、現代の環境に適応した遺伝子は現時点では備えられていない。 極論、石器時代に構成された脳で私たちは現在を生きている。これらの時代背景の違いから不適合もおこる。 Kock(2002) Buss (1999) 自然さ(naturalness)が欠如することのリスク 自然さが抑制されたコミュニケーションは、ヒトの脳に余計な負担をかけてしまう可能性が高いことを指摘。 Kock(2002) 自然さ(naturalness)の欠如によるリスク コミュニケーションの自然さ(naturalness)が低下するリスクを3つの視点で指摘。 ・認知的コスト増加 (cognitive effort) ・曖昧さの増加 (communication ambiguity) ・生理的活性化の低下 (physiological arousal) Kock(2002) 自然さ(naturalness)が低下するリスク(1) ・認知的コスト増加 cognitive effort 事後的に学習されたコミュニケーション神経回路は、進化によって構成されたものほど効率的ではない。 それゆえ、対面外のコミュニケーションでは、負荷が生まれやすい。 Lieberman (1998) 自然さ(naturalness)が低下するリスク(2) ・認知的コスト増加 cognitive effort 自然さの低下が認知コストの増加につながる実証実験の結果を提示。 メールよりも対面の方が流暢さ(fluency:一定数の単語を伝えるのに要した時間)が平均で18倍高いと提示。 Kock (1998, 1999) 自然さ(naturalness)が低下するリスク(3) ・曖昧さの増加 communication ambiguity ヒトには表情やボディランゲージなどから情報を読み取る認知機能が備わっている。 これらが使われないと、 誤解や曖昧さが増加する可能性が高いことを指摘。 Gardner (1985) Pinker (1997) 自然さ(naturalness)が低下するリスク(4) ・生理的活性化の低下 physiological arousal 表情・ボディランゲージが抑制された状態では、生理的な覚醒状態が生まれない。 鈍感で感情的な満足を得られないコミュニケーションになってしまうリスクがあると指摘。 Kock(2002)

<ここまでのまとめ> コミュニケーションにおける自然さ(naturalness)の低下は、双方の認知コストを高め、曖昧さを促し、心身の活性状態を回避してしまいます。 それによってコミュニケーションの効率や効果が抑制されてしまう可能性があります。 ――――― ■まとめ 電子メールやWEB会議が、コミュニケーションの効率化に資する影響は大きいものです。 一方で、それらのコミュニケーションメディアは、自然さ(naturalness)の抑制されたものです。私たちには、副作用や弊害を認識し、補完する手段や機会を想定しながら利用していくことが求められます。 ―――――

本エントリーはVWL.のTwitterで記載したVirtual Workplace に関するReferenceをまとめたものです。最新のReference情報については、Twitterをフォローいただければと思います。 VWL.Twitter @LabWorkplace 最新のReference情報はこちら

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